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なぜ今、耐震が問われるのか

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住宅の耐震をとりまく環境は、10年前と現在では大きく変化している。能登半島地震、建築基準法の改正、耐震等級をめぐる意識の変化——複数の出来事が重なる今、自分の住まいの耐震性能を知ることがかつてないほど重要になっている。

住宅の耐震をとりまく環境は、10年前と現在では大きく変化している。今住宅の現場で何がおきているのか。

能登半島地震が突きつけた現実

2024年1月1日、石川県能登地方を最大震度7の地震が襲った。死者241名のうち、その大半の死因が家屋の倒壊によるものだったとされている。

衝撃的だったのは、1981年以降の「新耐震基準」で建てられたはずの住宅にも、倒壊被害が少なからず発生したことだ。新耐震なら安全——そう信じていた人は多かったはずだ。しかし現実はそうではなかった。

一方で、国土交通省の有識者委員会が2025年12月に公表した最終報告では、住宅性能表示制度に基づき耐震等級2以上を取得した住宅には、大破や倒壊・崩壊の被害がなかったことが明らかにされた。

つまり、同じ「地震に強い家」のつもりでも、実際の性能には大きな差がある。能登半島地震は、その事実を改めて社会に突きつけた。

2025年4月——建築基準法が変わった

この地震の教訓とも重なるように、2025年4月に建築基準法が改正された。住宅の耐震をめぐる制度として、特に大きかったのは次の2点だ。

ひとつは、いわゆる「4号特例」の縮小。これまで、木造2階建て以下の住宅は、確認申請時に構造関係の図書を省略できる仕組みがあった。設計者に構造安全性の確保は求められていたが、行政によるチェックは実質的にスキップされていた。今回の改正で、この省略の範囲が縮小され、木造2階建て住宅でも構造関係の審査が必要になった。

もうひとつは、壁量計算の基準が実態に合わせて見直されたこと。近年の住宅は、太陽光パネルの設置や断熱材・窓の高性能化によって、建物自体が重くなっている。重い建物は地震の力をより大きく受ける。にもかかわらず、壁量の計算基準はその重量増加を十分に反映していなかった。今回の改正で、建物の実際の荷重に応じた壁量の算定が求められるようになった。

つまり、「省エネのために高性能化したら、その分だけ耐震も強化しなければならない」という当たり前のことが、ようやく制度として整備された。

「耐震等級1」では足りないという空気

建築基準法が定める耐震性能は、あくまで「最低限の基準」だ。この最低基準を満たしたものが耐震等級1に相当する。等級2はその1.25倍、等級3は1.5倍の地震力に耐えられる水準とされている。

10年前であれば、耐震等級1でも「法律を守っているのだから安心」と考える人は多かった。しかし今、住宅業界の空気は明らかに変わっている。

熊本地震(2016年)では、耐震等級3の住宅に大きな被害がほとんどなかったことが報告された。そして能登半島地震でも、耐震等級2以上の住宅には倒壊・大破がなかったというデータが出た。

この二つの大地震を経て、「耐震等級3が当たり前」という意識が、建築の実務者だけでなく、施主の側にも広がりつつある。ハウスメーカーの多くは標準仕様で耐震等級3を打ち出すようになり、工務店でも許容応力度計算による等級3取得を売りにするところが増えた。

等級1と等級3の間にある「0.5倍の差」は、数字にすれば地味に見えるかもしれない。しかし、その差が命を分けることを、私たちは実際の震災で学んでしまった。

「壁量計算」と「許容応力度計算」の違い

耐震等級の話をすると、必ず出てくるのが構造計算の方法の違いだ。

木造住宅の構造検討には、大きく分けて「壁量計算」と「許容応力度計算」がある。壁量計算は、必要な耐力壁の量を簡易的に確認する方法で、多くの住宅はこの方法で設計されてきた。一方、許容応力度計算は、柱や梁、接合部にかかる力をひとつひとつ計算し、すべての部材が安全であることを確認する方法だ。

同じ「耐震等級3」であっても、壁量計算で取得したものと、許容応力度計算で取得したものでは、設計の精度に差がある。壁量計算はあくまで簡易的な手法であり、建物の実際の荷重バランスや接合部の安全性までは細かく検証しない。

近年、「本当に安全な住宅を建てるなら、許容応力度計算で耐震等級3を取得すべき」という声は確実に大きくなっている。コストや手間は増えるが、構造の安全性に対する「見える化」が進んでいるのは、10年前にはなかった流れだ。

省エネと耐震のジレンマ

住宅の現場では今、省エネ性能と耐震性能を同時に高めるという課題に直面している。

2025年4月からは省エネ基準への適合も義務化された。断熱材を厚くし、窓をトリプルガラスにし、太陽光パネルを載せる。どれも省エネには有効だが、すべて建物を重くする方向に作用する。

重くなった建物を支えるには、より多くの耐力壁が必要になる。しかし耐力壁を増やせば、間取りの自由度は下がる。大きなリビング、広い窓、吹き抜け——こうした開放的な空間は、構造的には弱点になりやすい。

「性能の高い家」を実現するためには、省エネと耐震と間取りの三つを同時に成立させる高度な設計力が求められる。これは10年前の住宅づくりとは次元の異なる難しさだ。

既存住宅という巨大な課題

新築住宅の耐震水準が上がる一方で、日本には耐震性が不十分な既存住宅が膨大に残っている。

1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅は、全国に数百万戸規模で存在するとされる。さらに、1981年から2000年の間に建てられた「新耐震だが2000年基準には達していない」住宅も数多い。能登半島地震でも、この年代の住宅に被害が集中した。

耐震改修の補助金制度は各自治体に用意されているが、利用率は高いとは言えない。改修には費用がかかるし、工事期間中の生活の不便もある。そもそも「自分の家が危ない」という認識がなければ、行動にはつながらない。

能登半島地震の被災地では、輪島市や珠洲市の耐震化率が約50%前後と、全国平均を大きく下回っていた。これは能登に限った話ではない。地方の木造住宅が多い地域には、同じような状況のところがいくつもある。

「耐震」から「制震」「免震」へ——選択肢の広がり

耐震は「地震の力に耐える」アプローチだが、近年は「制震」や「免震」という選択肢も住宅レベルで広がりつつある。

制震は、ダンパーなどの装置で地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを抑える技術だ。耐震と組み合わせることで、繰り返しの地震にも効果が期待できる。後付けも可能な製品が増えており、既存住宅の補強手段としても注目されている。

免震は、建物と地面の間に免震装置を入れ、揺れそのものを建物に伝えにくくする技術だ。マンションやビルでは普及が進んでいるが、戸建て住宅ではコストの壁が高く、まだ一般的とは言いがたい。

ただ、重要なのは「耐震等級3で建てたから終わり」ではないということだ。建物は経年劣化する。木材は湿気で傷み、金物は錆びる。新築時の性能を維持するためには、定期的な点検とメンテナンスが欠かせない。

家は「建てた日」が一番強い

住宅の耐震性能は、基本的に新築時がピークだ。そこから年月とともに少しずつ劣化していく。シロアリ被害、雨漏りによる構造材の腐朽、基礎のひび割れ。どれも見えにくい場所で進行し、気づいたときには耐震性能が大幅に落ちていることがある。

能登半島地震では、過去の地震で一度は耐えた住宅が、蓄積されたダメージによって今回倒壊したケースも報告されている。「前の地震で大丈夫だったから、次も大丈夫」は通用しない。

新築であれ既存住宅であれ、耐震性能は「一度確認したら終わり」ではなく、継続的に維持管理していくものだ。この意識が浸透しているとは、まだ言いがたい。

「知っているかどうか」が命を分ける

住宅の耐震をめぐる環境は、確かにこの10年で大きく変わった。法律が変わり、技術が進み、選択肢が広がった。

しかし、その恩恵を受けられるのは、変化を知り、行動した人だけだ。

自分の家がいつ建てられたのか。どの耐震基準で設計されているのか。構造計算はどの方法で行われたのか。耐震等級はいくつなのか。そもそも、耐震等級を取得しているのか。

これらの問いに答えられる人は、実はそう多くない。

地震はいつ来るかわからない。だからこそ、「来てから考える」のでは遅い。今この瞬間に、自分の住まいの耐震性能を知ること。それが、10年後も安心して暮らすための、最初の一歩になる。

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